「斜陽産業」と言われる呉服業界で、僕が今思うこと

「斜陽産業」と言われる呉服業界で、僕が今思うこと

呉服業界って、客観的に見たらどんな業界なんだろう。

そんなことを、40歳になった今、ふと考えています。

市場規模は昔に比べればずいぶん小さくなったし、職人さんの高齢化や後継者不足もある。

着物を日常的に着る人も、昔に比べれば圧倒的に少ない。

だから「斜陽産業」と言われることもあるし、「もう着物なんて売れないでしょ」と言われることもあります。

「オワコン」なんて言葉で片付けられることだってある。

でも最近、僕は「斜陽産業」という言葉より、

「成熟産業」

という捉え方のほうが、今の呉服業界を考えるには面白いんじゃないかなと思っています。

23歳のときに言われた、忘れられない一言

僕が23歳くらいの頃。

祖父のお葬式だったと思います。

その席で、ほとんど面識のない年上の男性と話す機会がありました。

当時の僕は着物屋に社員として勤めていて、

「呉服屋で働いています」

という話をしました。

すると、その人から、

「呉服業界はなくなりはしないだろうけど、斜陽産業だから大変だ」

というようなことを言われました。

そして、

「公務員はいいぞ」

みたいな話をされたんですよね(笑)

たぶん、その人に悪気はなかったと思います。

自分自身が公務員として働いていて、それがいい仕事だと思っていたから、若かった僕に親切心で言ってくれたんでしょう。

でも、僕はめちゃくちゃ引っかかった。

というより、ちょっと腹が立ったんだと思います。

「何を言ってるんだろう、この人」

って。

今思えば、僕は昔から結構、天邪鬼なんでしょうね(笑)

「そんな業界、大変だぞ」

と言われると、

「じゃあ、その中でやってやろうじゃないか」

と思ってしまう。

考えてみれば、あのとき言われた言葉は、23歳から40歳になった今まで、ずっと僕の中に残っています。

「斜陽産業」という言葉で思考停止したくない

もちろん、今なら分かります。

あの人が言っていたことは、客観的にはそれほど間違っていなかった。

呉服業界が長期的に縮小してきたのは事実です。

だから、

「呉服業界は斜陽産業ですか?」

と聞かれれば、そういう側面は間違いなくあると思います。

でも、最近思うんです。

「斜陽産業だからダメ」と結論づけてしまった瞬間に、考えることをやめてしまうんじゃないか。

「着物を着る人が減った」

「昔みたいには売れない」

「職人さんも減っている」

全部、本当のことです。

でも、それを並べて、

「だから、この業界には未来がない」

と結論づけても、何も生まれない。

それよりも僕は、

「成熟した業界の中で、どうやって新しい価値を生み出すのか」

と考えるほうが面白い。

着物そのものが必要なくなったわけじゃない

僕が普段扱っているのは、いわゆる「普段着の着物」です。

木綿だったり、麻だったり、洗えるものだったり。

昔ながらの呉服業界の常識からすると、少し違うところを歩いてきたのかもしれません。

ECで着物を販売したり、新しい仕立て方を考えたり、オリジナルの商品を作ったり。

今までの着物屋があまりやってこなかったことも、いろいろやってきました。

もちろん、全部がうまくいくわけじゃない。

仕入れたものが売れなければ支払いはやってくるし(笑)、新しいことを始めれば失敗もする。

むしろ、

「これ、本当にうまくいくのかな……」

と思っている時間のほうが長いかもしれません。

でも、だから仕事として面白いんでしょうね。

「憂鬱でなければ仕事じゃない」

最近、藤田晋さんと見城徹さんの『憂鬱でなければ仕事じゃない』を読みました。

この本、昔からタイトルは知っていました。

藤田さんが福井県出身ということもあって気にはなっていたんですが、若い頃の僕はタイトルを見て、

「いや、仕事って面白いほうがいいでしょ」

と思っていました(笑)

だから、なかなか読む気にならなかった。

ところが40歳になって読んでみると、受け取り方が全然違いました。

僕なりの解釈ですが、

仕事の面白さって、「楽しいことだけをやる」という意味じゃない。

むしろ、

「うまくいくだろうか」

「売れるだろうか」

「この判断でいいんだろうか」

という憂鬱さを抱えながら、それでもやる。

そして、それを乗り越えた先にある達成感まで含めて、仕事の面白さなんじゃないか。

そんなふうに感じました。

成熟産業だからこそ、面白いのかもしれない

そう考えると、呉服業界というのは、僕には案外合っていたのかもしれません。

右肩上がりで、何をやっても売れる業界ではない。

むしろ逆です。

人口が減る。

着物を着る人も減る。

作る人も減る。

原材料も上がる。

昔と同じことをやっていれば大丈夫、という世界でもない。

なかなか憂鬱です(笑)

でも、

「じゃあ、どうする?」

を考える余地がものすごくある。

どうすれば、今の人が着物を着たくなるのか。

どうすれば、もっと気軽に楽しめるのか。

どうすれば、職人さんの技術を次につなげられるのか。

どうすれば、昔からあるものを、今の暮らしに合う形に変えられるのか。

考えることはいくらでもあります。

それって、実はすごく面白いことなんじゃないでしょうか。

23歳の僕に、

「君のいる業界は斜陽産業だ」

と言ったあのおじさん。

40歳になった今なら、

「まあ、確かにそういう見方もありますよね」

と言える気がします。

でも、そのあとに一言付け加えたい。

「だから面白いんですよ」

って。

成熟した業界の中で、まだ誰も作っていない価値を作る。

昔からある着物というものを、今を生きる人たちにどう届けるのかを考える。

たぶん僕は、これからもそんなことを考えながら着物屋をやっていくんだと思います。

そして考えてみれば、23歳のあの日に感じた、

「何を言ってるんだ、この人」

という天邪鬼な気持ちも(笑)

案外、ここまで仕事を続けてこられた原動力のひとつだったのかもしれません。

そんなことを考えた、40歳の夜でした。

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